(One)

 とある古い伝承が残っている。



 北の森のずっと奥には、古い石の塔があった。それは、竜の住処だった。

 人々は、竜の塔の存在は知っていたものの、深い森の奥にあるため、それを目にすることはなかった。


 ある夏のこと。王国に、土砂降りの雨が降りつづけた。雨はいつまでも止むことがなく、川は溢れ、作物は水に浸かり、多くの人が濁流に呑まれた。

 王は祈った。どうかこの雨を止めてくれ、そのためには何でもするから、と。

 すると、滝のような雨を突っ切り、厚く雲の垂れこめた空を渡り、王の前に竜が現れてこう言った。

 我は塔に囚われし者。時の流れぬ北の果ての塔で、『時』を守りつづけている。

 我の代わりに塔に囚われ、『時』を守る者を差し出せば、この雨を止めてみせよう。

 それを聞いた、王女が言った。

 私が貴方の代わりになる、と。

 王が口をひらく間もなく、竜は王女を抱えて飛び去った。そして、塔のてっぺんに王女を残し、再び空に舞い戻った。


 人々はふと、あたりが明るくなってきていることに気づいた。雨が、止んでいた。

 そして北の果ての塔の上に、王女はひとり残された。


 そして今でも、『時』を守りつづけているという話。

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