Chapter Seven

 太陽の光が射し込んできました。お姫さまはとうとう立ち上がって、再び人形を抱き上げました。

(きっと、いきなりこの人形が現れたから、それで気になって仕方がないのね)

 そう、自分を納得させます。

「おはよう」

「おはようございます」

 お姫さまは、ふりむいて答えました。今日もまた、話ができる。それだけのことが、心を浮き立たせます。

「今日の天気はどうだい?」

「今日は雲が多いですが、青空も覗いています」

「そうか。じゃあ、今日もせっせと手を振らなきゃな」

「はい」

 威勢良く答えたお姫さまですが、人形を抱えたまま、雲に手を振ろうとはしませんでした。

 ただ、本棚の間の壁にぴったりとくっついて、壁の向こうに耳を傾けていました。



 お姫さまは少しずつ、人形に馴染みはじめました。ずっと抱いているうちに、愛着も湧いてきました。

 お姫さまはどんな時も、壁の向こうに耳を傾けていました。もちろん、会話が途切れることも多くありましたが、そんな時でも、何か聞き洩らすことのないように、ちゃんと注意していました。

 日記のページには、毎日びっしりと言葉が並ぶようになりました。


 お姫さまは、もうずっと、こんな毎日を過ごしてきたような気がしはじめました。

 人形を抱いて眠り、壁を隔てて言葉を交わす。眠る前と目覚めた時には、相手の存在を確かめ合う。たったそれだけの、幸せな毎日を。

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