Chapter Five

「おはよう。……起きてるかい?」

「はい、起きています。『おはよう』というのは何でしょうか」

「朝、起きた時に言う言葉だよ」

「そうなのですか」

 また、新しいことを知りました。お姫さまの顔は、ひとりでに綻びます。

「では、おはようございます」

 少し間が空きました。

「君は『おやすみ』も『おはよう』も知らないのに、ちゃんと丁寧に『おやすみなさい』『おはようございます』と言うんだね」

 言われて、お姫さまは首を傾げました。

「そう……言われてみると、少し変な気もいたします。わたしは、この言葉を知っていたのでしょうか」

「そうかもしれないね」

 声は、ゆっくりとそう言いました。何か考えこんでいるようでした。



「今日もまた、良い天気です。でも、昨日よりは雲があります」

「そうか」

「あなたは、雲に手を振ることがありますか?」

「雲に手を振る?」

 声は面食らったように応えました。

「いや、ないよ」

「そうなのですか。では、きっとそれが正しいのでしょうね」

「でも、良いと思うよ。雲に手を振ったって、さ。雲だってきっと喜ぶよ」

「でも、雲はこちらに気づいてくれません」

「恥ずかしがって知らんふりしてるのさ」

「そうなのですか?」

 お姫さまは目をまるくしました。

「知りませんでした。では、これからも振っていたら、いつかこちらを見てくださるでしょうか」

「ああ、きっと雲の方が根負けするよ」

 お姫さまは嬉しくなって、声を立てて笑いました。なぜか、ふわふわとくすぐったいような気持ちがしました。

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