Chapter Five
「おはよう。……起きてるかい?」
「はい、起きています。『おはよう』というのは何でしょうか」
「朝、起きた時に言う言葉だよ」
「そうなのですか」
また、新しいことを知りました。お姫さまの顔は、ひとりでに綻びます。
「では、おはようございます」
少し間が空きました。
「君は『おやすみ』も『おはよう』も知らないのに、ちゃんと丁寧に『おやすみなさい』『おはようございます』と言うんだね」
言われて、お姫さまは首を傾げました。
「そう……言われてみると、少し変な気もいたします。わたしは、この言葉を知っていたのでしょうか」
「そうかもしれないね」
声は、ゆっくりとそう言いました。何か考えこんでいるようでした。
「今日もまた、良い天気です。でも、昨日よりは雲があります」
「そうか」
「あなたは、雲に手を振ることがありますか?」
「雲に手を振る?」
声は面食らったように応えました。
「いや、ないよ」
「そうなのですか。では、きっとそれが正しいのでしょうね」
「でも、良いと思うよ。雲に手を振ったって、さ。雲だってきっと喜ぶよ」
「でも、雲はこちらに気づいてくれません」
「恥ずかしがって知らんふりしてるのさ」
「そうなのですか?」
お姫さまは目をまるくしました。
「知りませんでした。では、これからも振っていたら、いつかこちらを見てくださるでしょうか」
「ああ、きっと雲の方が根負けするよ」
お姫さまは嬉しくなって、声を立てて笑いました。なぜか、ふわふわとくすぐったいような気持ちがしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます