止まらない波㊸

 小紋は、なぜかジェイソンと正太郎の境遇を重ね合わせていた。

 正太郎は、ジェイソン少年の憧れの人物である。言わば、正太郎と言う人物は生まれながらにして才覚に秀でた部分は一致している。しかし、数多の不運な境遇によってひどく困難とも言える人生を歩んで来た人物である。

 しかし、彼は数多ある困難を乗り越えて来たことで、現在のような人格を形成し、今の考えに至っているわけである。

 小紋は思っていた。

(きっと、アリナさんのお父さんは、そのことを知っていたんだ。だって、当時のバリバリの諜報員だったんだもの、そりゃそうだよね。だから、第二の正太郎さんを……いえ、正太郎さんを超えられる人材を育てたかったんだ……)

 ゆえに、その先を気になるのも無理はない。ゆくゆくは、小紋自身が正太郎のとの子を授かれば、どうしても考えねばならぬ決断でもあるからだ。

「最初の一日、二日と、万事がまるで絵に描いたように上手くいっていました。わたくしたち一家は、まるで見知らぬ街に出も観光に来たかのように振る舞い、そして視野を広げて行ったのです。ですが、三日目にゲッスンの谷の一番の繁華街と言えるウェグナンスゲートに入った途端……」

「なに? そこでなにかあったの?」

 そこでアリナは口ごもった。彼女は、いきなり眉間にしわを寄せ、急に黙り込んだ。

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