止まらない波㊹

 アリナは思い起こす。思い出したくはないが、思い出さざるを得ない記憶。

 アリナは、その都会の雑踏と化した殺風景な風景とは裏腹に、まるで祭りの賑わいのような人ごみの中に内なる野心と化した人々の欲望を見ていた。

(この街の人たちって、風体や見た目とは違って原始の塊なんだわ……)

 街は、そのほとんどがグレー一色のコンクリートブロックの箱庭である。

 彼らは、一様に脳に補助脳を移殖されており、そこで各々おのおのが夢見る街のいろどりを施している。

 それぞれの主観ではあるものの、それは彼らにとって現実であり、他人をとやかく変化させてしまうのも自由の権利と言えた。

(この人たちは現実を直視していないから、それも幸せと言えるのね……)

 そのお陰で、アリナの一家は簡単なパスコードの改変をするだけで、対象の一家に成り代われたのだ。認識は、視覚や聴覚、嗅覚と言った原始的な感覚を伴って行われるものではない。ミックスの第一の認識は、中央システムに蓄えられた個人データから引き出されたものを、それぞれのパスコードによって導き出されて、それをフィードバックさせたものだ。

 よって、どんなに視覚的情報が曖昧でも、それぞれの相互認識は中央システムから送られて来たデータを基本とするものである。

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