止まらない波㉙

 ※※※


 チェカは、ひどく不安が駆け巡り胸の辺りが縮み込む勢いだった。

 それは、相棒であったチェン・リーのなれの果てのこともあるが、正太郎にマリダの存在を解き明かされたことが原因である。

 一体、わたしは何を信じて生きて行けばよいのか? 一体、わたしはこれから何を土台にして行けば良いのか? 極めて真面目な性格の彼女は、どうしてもそう考えてしまうのだ。

「どうしたんだ、チェカ? 様子がおかしいぞ?」

「は、はい……。どうしても動悸が収まらないのです」

 人はそれぞれに個性が違う。そして、それまでに積み重ねて来た経験も違う。それだけに、正太郎には髪一本の幅ですら精神が揺るがない出来事でも、人によってはそれだけで甚大なストレスに感じられてしまうのだ。

 チェカにとっては、それが今まさに起きている心境であり、肉体的に生じる負の衝動なのだ。

「あ、ああ……。きょ、教官……。わたし……」

 訓練に明け暮れた守備隊時代にすら、このような症状はなかった。しかし、どういうわけか、今は激しい鼓動と共に手の震えが止まらず、さらに足の先まで力が入らない。

「大丈夫か、チェカ!? おい、チェカ!?」

 正太郎はチェカの両肩を抑え、震えを止めようとするがまるで収まりがつかない。

「チェカ! チェカ! 息を吸え! そして大きく吐け!」

 しかし、チェカの震えは次第に大地震のように大きくなる一方で、

「あ、ああああ……」

 彼女の人形のように美しい顔が、まるで断末魔に触れたように歪み始める。

「おい、おい!! チェカ、しっかりしろ! チェカ!!」

 正太郎は思わず彼女の長身細身の体躯を抱きしめた。すると、

「あ、ああああ!!」

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