止まらない波㉒

 ※※※


「ハメられたって……教官。私たちは、やはり吾妻元少佐に良いように操られていたってことなのでしょうか!?」

「ああ、そうさ。これは俺も迂闊うかつだった。なにせ吾妻さんは、管轄は違えど、この俺と一緒にあの戦乱を潜り抜けて来た戦略戦術グループの猛者だったからな。この俺も、反乱軍の駆け出しのころは、あの人の力に何度も助けられた。そうさ、あの人はこの俺と同じ釜の飯を食って、同じように戦友なかまたちをとむらって来た同士だったんだよ」

「でも。でも、なぜそんな方が……!?」

「なあに、簡単なことさ。解けねえ疑問符は、少し目線を引けばすべてが丸見えになる」

「一歩目線を引く?」

「ああそうさ。つまりだな、チェカ。もう五年も十年も前に起きていた戦乱の中の出来事も、全ては〝奴〟の描いた筋書きの一つだったってことだよ」

「ええっと、それってつまり……?」

「吾妻さんが俺と戦乱を生き延びたことも、そして、あの激しかったヴェルデムンドの戦乱が収まってもこの俺が極刑にも晒されずに生き延びて来たことも、全てが偶然じゃなかったってことさ」

「偶然じゃなかったって……」

「そうだ。全ては〝奴〟の描いた筋書きの範疇はんちゅうだったってことだよ。そして枝葉末節しようまっせつではあるものの、目の前のチェンがあんな化け物の姿になっちまったってことも」

「なんですって!?」

「〝奴〟の手口は巧妙だ。いや、巧妙と言うよりも大胆不敵と言った方がしっくり来るな。なにせ〝奴〟は、この俺の目の前で、しかもこの俺を利用してまでも、こんな筋書きを演じさせやがったんだからな」

「きょ、教官! さっきから何を仰られておいでなのですか!? 私にはちっとも意味が分かりません。そして、何度も口にしておいでの〝奴〟とは、一体誰のことなのですか?」

「それはな……」


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