止まらない波㉓
「それは……?」
「それは、〝奴〟とは……彼女」
「彼女?」
「そう、俺が言った〝奴〟とは……マリダ。マリダ・ミル・クラルイン。俺の馴染みのアンドロイドの名前だ」
「ええっ、なんですって!?」
チェカは鼻息と共に言葉を投げるように吐いた。そして、目が飛び出してしまうのではないかというぐらいのけ反った。なにせマリダ・ミル・クラルインとは、均衡世界が起こる以前にペルゼデールネイションの女王に君臨した存在であるからだ。そして、ヴェルデムンド新政府が没落する切っ掛けとなったのも彼女たちのペルゼデール・ネイション建国が発端なのである。
世界初のアンドロイド女王として君臨した唯一無二の彼女は、その類いまれな美貌と優秀な能力をもって国民の信頼も厚い。
そんなマリダ・ミル・クラルイン女王が、まさかこれまでの騒動の筋書きを書いた存在であるなどと誰が予測するだろうか。
「へへっ、チェカ。キミがそんな顔するのも無理もねえ。なんせ、あのマリダだからな。あんなに優秀で人の心が解かるアンドロイドは二つと居ねえ。でもよ、俺から言わせれば、それは疑念を持つ当然の理由なんだよ」
「それが当然の理由って……」
「ああ……。マリダは誰にでも優しい。そして、彼女は人間よりも人の心が理解出来る。さらに言えば、人類全体を良い方向へと導びこうとしてくれている。普通に考えれば、こんなに人間に尽くしてくれる良いアンドロイドは存在しない。けどよ……」
正太郎は遠い目をしながら、破壊の限りを尽くそうとするチェン・リーのなれの果ての姿を目で追う。そして続けざま、
「奴が人類全体を考えてくれているまでは良かった……。ああ、良かったんだが、この俺や小紋に対して特別な思い入れをしてから、奴は行く道を間違えちまったんだ……」
※※※
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