止まらない波㉑

 ※※※


「小紋様。このアリナ・インシュラントが推察するに、あの吾妻元少佐なる男は二重スパイダブルクロスなどではありません。元々が、ヴェルデムンド新政府軍のであったと考えられます」

 小紋には、アリナの言葉が棘で肝を逆なでされるように痛んだ。それは、ここに居る全ての人々というばかりではなく、あの羽間正太郎ですら一杯食わされていたことを意味するからだ。

「ア、アリナさん。と、ということは、それって、それってもしかして……?」

「ええ。まだあの存在がこの世界に居続けているということです。かつて、この大地の権限を完全掌握し掛けた、あのヴェルデムンド新政府の存在が」

「や、やっぱり……」

 かのヴェルデムンドの戦乱に勝利をおさめ、そして〝黒い嵐の事変〟の勃発とともにその栄華を没落させた。それがヴェルデムンド新政府である。

 その亡き者となったはずの新政府がまだある、と彼女確証を得ているが如く言うのだ。そして、かの吾妻元少佐なる男とその部下たちは、その新政府軍の工作部隊であると述べているのだ。

「推論となる証拠は、先ほど申しました通りで御座います。つまり、この〝均衡なる大地〟となった今現在にも、ヒューマンチューニングによるサイボーグ化技術の新型を使い続けられているということ。それを含めて調べましたところ、予測通りあのカートリッジは地球産の物では御座いません。なにせ、今でも貴重なゲッスンライトが大量に使用されておりましたから」

「あ、ああ。じゃあ……。アリナさんのその後の推論は?」

「ええ。おそらく、そのことは小紋様もお気づきになられていらっしゃいますでしょう? そうです。そうなのです。これまでの大きな流れは、かのヴェルデムンド新政府が仕組んだ筋書きではないかと思われます。そして、その筋書きを書いたのは……」

「もしかして、僕のお父様が……?」

 小紋が恐る恐る問いただすと、

「いえ、あなた様の御父上などでは御座いません」

「じゃ、じゃあ、誰がこんなことを?」

「はい。これもわたくしの推論でしか御座いませんが」

 アリナはそう言ってため息を吐くと、少しだけ言い難そうに、

「恐らくでは御座いますが、この筋書きを仕組んだのは、大型人工知能神〝ダーナフロイズン〟。もしくは、それにかかわる者ではないかと……」


 ※※※


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