止まらない波⑯


 アリナは言った。言い切ったのだ。あなた達こそがこの場所の代表であると。そして、この窮地を切り抜けるための標榜であるのだと。

 この時小紋は、アリナの言葉に自らの宿命を感じていた。これが、かの〝ヴェルデムンドの背骨折り〟の伴侶となったあかしなのだと。

「小紋様。もうこの時点で、あなた様の命はあなた様個人の物ではありません。そして、あなた様はわたくしどもにとって、とても有益な道しるべであり、心の支えとなってしまっているのです。それは、あなた様がたったお一人で凶獣を倒せるとか倒せないとかだけの問題なのではないのです」

「アリナさん。それはつまり、僕はみんなにとっての……」

「はい、おそらく……小紋様のお心のおわすままであると」

「やっぱりそれって、僕たちはみんなの〝人身御供ひとみごくう〟ってことだよね? ううん、きっと、きっとそうなんだね……。僕はみんなのための人柱にならなくちゃいけないんだね」

 小紋がぼそりと問い掛けるが、アリナは顔を伏したままそれ以上答えようとはしない。

 しかし、小紋はその言葉を受け入れるしかない。まさに、その通りだからである。

 いかに権力的な立場にあろうとも、彼女は人々の命と生活を守るという責務を背負わねばならない。羽間正太郎という唯一無二の男の伴侶はんりょとなった以上、ただの小集団のまとめ役というだけでは収まらないのだ。

「分かりました、アリナさん。ならば、状況を事細かに説明をお願いします」


 ※※※


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