止まらない波⑮

 これは、小紋にとって二度目の大きな裏切りである。かの抵抗組織〝シンク・バイ・ユアセルフ〟で統括リーダーを任されていた頃から二度目である。

 思えば、吾妻元少佐がデュバラ・デフーの似顔絵を類まれな描写で描けていた時に気づくべきであった。彼は小紋の証言を基に、まるで写真を見せられているかのような似顔絵を描き上げていた。

 その絵は、とてもその対象を知り得ないで描き上げたのには出来が良すぎる。つまり吾妻元少佐は、デュバラ・デフーという男を元から知っていたのか、もしくは三次元ネットワーク通信によって情報収集を行っていたということなのである。

「恐らくなのではありますが……」

 アリナはかしこまりながら、

「きっと、吾妻元少佐とそれらの配下には、メンバーが一定の距離を保つことによって三次元ネットワーク通信を可能にさせていたのだと推測されます」

「な、なるほど……」

「多分なのですが、この廃棄された関節アタッチメントの新しさに対し、このすり減り消耗具合には、尋常ならざるものを感じます」

「ということは、それだけ一人一人の移動距離が凄まじいものだったと?」

「その通りです。そして、彼らが一堂に会したところを我々は見た覚えがありません。よって導き出される推測は、彼らは常に一定の配置にあり、それによってどこかの人物……あるいは集団と連絡を取り合っていたのだと考えられます。まさに、これは警護役であるわたくしどもの盲点でありました」

 小紋は、アリナの言わんとすることを理解した。小紋ならず、この集落を司る正太郎にしても、この集落に暮らす人々にしても現状の暮らしは現代人にとって、とても現実離れした生活を強いられている。

 彼ら吾妻元少佐らの工作部隊は、どこかその余裕の無さの心の隙を狙ってこの集落に近づいてきたのだ。そして、何の疑いも感じさせずに、この集落の中枢にまで力を及ばせていたのだ。

「お気をしっかりお持ちになさいまし、小紋様。我々は、まだあなた様にやって頂かなくてはいけないことが山のように御座います。そして、その役目はあなた様と、あなた様の旦那様にとっての責務であるのです」

 

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