止まらない波⑦


 正太郎らが苦戦を強いられている頃、時を同じくして、

「正太郎さん、絶対に大丈夫だよね……」

 すっかり心の支えに置き去りにされてしまった小紋は、昨夜まで共にしていたベッドの上に力なくへばりついていた。

 世間では無敵の男と称される正太郎ではあるものの、彼女はかの〝黒い嵐の事変〟の際に、正太郎が棺桶に身体の半分以上を突っ込んでしまった事態をよく知っている。そして、その半死半生の要因を作ってしまったのも、また彼女が正太郎に心底依存していたからでもある。

「こんな時に、僕も一緒について行けたなら、こんなに苦しまずに済んだのに……」

 極度な寂しさもある反面、彼女は正太郎のことがすこぶる心配なのである。

 彼女らは、惹かれ合いながら事実上の婚姻関係となったが、まだ再会を果たして三か月にも満たない。それはつまり、かの〝黒い嵐の事変〟以降から離れ離れになっていた数年と比べるとかなり短い期間である。

 もし、彼がまたあのようなめに遭ってしまったなら――。

 もし、彼とまた会えない現実が巡ってしてしまったのなら――。

 小紋は、父大膳に地球へと強制送還されて以降、親愛なる男と再会を果たすことだけを夢見てここまでやって来た。それはつまり、これこそが今までの彼女の生き甲斐であり執念の源でもあった。

「確かに僕は、ここの生活を気に入っているし、ここに住んでいるみんなも守りたいと思っている。だけど……」

 不思議なことに、今回の彼女はどこか違っていた。わずか一年ほど前に〝シンク・バイ・ユアセルフ〟の統括リーダーを任されていた時のような、あの沸き上がるような力がみなぎって来ないのだ。

「もうダメなんだよ、僕は……。正太郎さんがそばに居てくれなかったら、何も出来なくなっちゃったんだよ……」

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