止まらない波⑥

 チェカは、正太郎の背中に寄り添うように、暴れまくるチェンのを目で追った。

(もしかすると、ヘギンス元曹長もあれにやられたのかもしれない……)

 可能性は非常に高かった。ヘギンスがリーダーを務める〝ジャンク隊〟の他の隊員二名は彼を十分に慕っているようだったが、その実は非常に出来の良い彼をどこかねたんでいたのかもしれない。

「教官、実は……」

「ああ、分かっている。分かっているよ、チェカ。俺も君を助ける直前にこの目で見たんだよ。あのヘギンスの変わり果てた姿をな」

「では、教官はどうお考えになっておられるのでしょうか?」

「ああ、そうだな……。多分だが、俺も君と同じ考えかもしれねえと思っている」

 チェカは、一瞬心拍が上がった。まるで彼に心の中を見透かされているようで胸辺りが苦しくなった。

「きょ、教官……。じゃあ、教官もヘギンス元曹長をあのようにしたのは、リロイ・リーゲルとハーミ・レミントンの所業であると……?」

 正太郎は黙ってうなずいた。さすがの正太郎も、この状況に自責の念を感じている。

 彼は、押し黙ったままチェンのなれの果ての動向をうかがっていたが、しばらくすると、

「今回だけは、この俺もしてやられたって感じだぜ……」

「え? そ、それはどういうことなのですか、教官?」

 チェカは、らしからぬ男の言葉を背中越しに聞いた。

「へへっ。どうやら、してやられちまったんだよ、俺たちは。奴らに……この俺も。そして俺たちみんなも……」


 ※※※


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