止まらない波④

「そんな、そんなことって……」

 チェカは、よもや信じられぬと言った表情で正太郎を見つめた。

 地球で生活をしていた頃は、彼女は優等生であり、そしてまぎれもない現実主義者でもあった。

 そんな彼女が、親の考えでヴェルデムンド世界に移り住んでからというもの、それは地球で生活していた頃よりも、さらに命の危険にさらされる超現実的社会であったことは言うまでもない。

 そして、その超現実主義的社会の真っただ中の最前線で命を懸けて戦って来た、この目の前の男――ヴェルデムンドの背骨折りこと、羽間正太郎の口からこのようなことを聞かされてしまうとは思いもよらなかったのだ。

「そうさ。この俺だって、こんなことを言っている自分に反吐へどが出るほど嫌気が差してるぜ。でもよ、現実に奴みてえな自分のネガティブな概念を反映しちまった奴を沢山見て来ちまったんだ。どうしてこうなっちまうのかなんて色々と理由はあるだろうが、それでも俺たちは目の前の現実に対処していかなくちゃならねえ」

 正太郎の言葉には説得力があった。生真面目な性格のチェカ・レビノホフにとって、この状況はかなり受け入れられぬ事態である。がしかし、それでもこれを受け入れねば命を落とす確率は格段に高くなってしまうのだ。

「ハ、ハザマ教官。わ、私……」

「良いんだ、チェカ。それが普通なんだ。だけどよ、これを夢まぼろしの中の非現実だと受け取ったまま死んでゆくのは忍びねえだろ? だったら、即行動するしかねえ。そして出来るだけ情報を集めるんだ。じゃねえと、ただの犬死にだ」

「は、はい……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る