止まらない波③

「嫉妬? 嫉妬って、あの嫉妬のことですか? 人を羨んでうらんだりねたんだりそする……」

 チェカはまだ気が動転している。ゆえに、言葉と概念のズレを修正するのに精一杯なようだ。

「そうだ、その通りだチェカ。嫉妬はその嫉妬のことだ。奴は、お前を妬むことであんな姿になっちまった……そう考えられはしねえだろうか?」

「そ、そんなこと、そんなことって現実にあるものなのでしょうか? そんな精神的な概念が人間の姿かたちまで変化させてしまうということなんて……?」

「ああ、あるさ。俺ァ、この数年もの間、あっちの世界でそんな非現実的とも言える現実をこの目で何度も見て来た。そして、それに立ち向かって来た」

「そ、そんな……」

 正太郎は、かつて黒塚悠斗というジェリー・アトキンスの姿をした少年を一人前の戦士として育て上げようとした。

 だが彼は、かつての彼の相方であった人工知能の〝早雲〟という、これもまた人間の姿をした美少女との愛憎に心を蝕まれ、やがて悪鬼の魔人の姿に変化してしまったのである。

「あの後、あいつらがどうなっちまったのかは分からねえ。だけどよ、チェカ。これもまたこの世界の現実なんだ。要するに誰かが仕組んだ〝この世界〟は、この世界に生きる一人一人の概念が簡単に反映されちまうってことなんだ」

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