完全なる均衡㊽

「あなたって、いつもそうよね!」

 チェカは、むかっ腹がっ立ちいきなり怒鳴ってしまった。どうしてこの男は相手を煽り立てる言い方をするのだろうか。以前に彼女が言った表面上の言葉を捕らえ、それでいちいち相手を言い負かそうする。ここまで悲惨な状況で仲間がやられているというのに、この男はそれを利用してまでも人をコケにしようとして来るのである。

「あなたねえ!」

「なんだよ?」 

「言わせてもらうけれど、そういう言い方ってないでしょう!? 確かにこれは現実なのかもしれないわよ? でも、私はそういうことを言っているのではないの! まだ何も分からないうちから、ダメだとかやられただとかそんなネガティブなことを言う前に、他の二人を探さないといけないのよ!! もしかするとどこかに身を寄せて隠れている可能性だってあるわけじゃない!! それからの方が現実でしょう!?」

 たとえ可能性が低かろうと、生きている可能性がある者を放っておくことは出来ない。それが凶獣守備隊で彼女が学んだ鬼の鉄則だった。

「な、なんだよう……。ただ俺は、この状況を見て可能性が高いことを言ってみたただけじゃねえか。それの何が悪いんだよ!?」

「そういうことを言っているんじゃないわ! ここで良いとか悪いとかの取り留めのない議論を交わしている場合じゃないってことよ!」

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