完全なる均衡㊾

「だ、だけどよう、どうもおかしいじゃねえか。なんでコイツは逆さ吊りにされているんだ?」

「さ、さあ、それは……」

 言われてチェカは、首を傾げた。

 かつて、凶獣守備隊に所属していたチェカは、このように肉体の所々を溶解された遺体を幾度となく見て来ている。だが、チェンが言うように木の枝に宙づりにされたものなど一度も見たことがない。

「俺たちがを下ろした時、このつるは簡単にほどけなかったよな?」

「そ、そうね。言われてみるとそうだったかも……。突然のことであまり気にしてはいなかったけれど、それはチあなたの言う通りだわ」

「そうだよ。だから俺は、この俺の自慢の短刀でこのぶっといつるを断ち切らねえといけなかったんだ」

 チェカは、この男も意外にやるものだと感じた。伊達に選抜隊に引き抜かれたわけではない。

「じゃあ、あなたの意見としては?」

「んん? 意見ってなんだ?」

「何だじゃないわよ。これはあなたが言い出したことよ? この……いえ、こちらのヘギンスさんの御遺体が、なぜ宙吊りにされているんだってこと」

「お、俺がそんなこと言ったか?」

 チェンが、再び素っ頓狂な声を上げた。

 チェカは、そんなこの男の態度に手のひらで額を覆い隠し、

「はあ……。少しだけあなたを見直そうとした私が馬鹿だったわ。あなたって、自分が言い出した言葉さえ頭の隅に置けないのね」

「そ、そんなこと言ったってよう、分からねえものは分からねえんだよ。俺は、お前やあのハザマの野郎みてえに、やれさっきはこう言っただとか、前にはこんな訓練をやっただとか、事細かに覚えちゃいねえんだよ。ちょっとお前らが異常すぎるんだよ!」

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