完全なる均衡㊼

 チェンが素っ頓狂な声を上げて、割りばしほどの松明たいまつをその先に掲げると、

「うわっ!!」

「きゃあっ!!」

 なんとそこには、逆さまのまま宙づりにされた男の影があった。

「こ、こいつは、〝ジャンク隊〟の……」

「へ、ヘギンスさん……。ま、間違いないわ。これはジャンク隊リーダーのヘギンス元曹長よ!」

 チェカには、その首に巻き付けられた赤い色のスカーフに見覚えがあった。顔こそ凶獣の溶解液によって原形こそとどめていないが、その強靭そうな肩幅とブロンドの癖のある長髪は、まさしく元反乱軍兵士であったヘギンス・ヘッケラーのものである。

「なんでこんな……!?」

「き、きっと……凶獣にやられたのね。ほら、凶獣が出す溶解液で身体の至る所が溶けちゃっているわ」

 凶獣ヴェロンは自らが死に際を察知すると、有機体を強力に溶かす体液を吐き出すことがある。ヘギンス元曹長は、その溶解液の餌食となった可能性が高い。

「きっとジャンク隊は、ここら辺りで凶獣と戦闘を行ったのね。じゃあ、あとの二人はどこへ行っちゃったのかしら?」

「さあな。ヘギンスがやられちまって、凶獣が恐ろしくて逃げちまったんじゃねえのか?」

 ジャンク隊は三人体制である。その三人のうちの中核的存在だったヘギンスがこのあり様となれば、チェンの言うこともあり得なくもない。

 チェカとチェンの二人は、宙づりになったヘギンスの遺体の足に絡みついたつるを短刀で断ち切ると、静かに地上に寝かしつけた。

「こりゃあ、もしかするとダメかもな」

「ダメかもって、何が?」

「あとの二人のことだよ」

「あなた、何を言って……!!」

「おい、そう癇癪を起こすなよ。俺はただ率直にただありのままを言っただけだ。なあ、だってそうだろう? それが現実なんだよ」

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