完全なる均衡㊹


 チェカにとって、羽間正太郎は生まれて初めて父親以外の男性を一人の男として認められる存在だった。

(ハザマ教官は、常に私たちのもっと向こう側に目を向けていらっしゃる……。だからなのよ、だから教官にはあの無限のようなバイタリティが湧き出ているんだわ。確かに歴戦の〝ハヤブサ隊〟お二方も立派な方々だけれども、ハザマ教官にはそれ以上の何かを感じるのよ)

 無論、チェカにとってハヤブサ隊の二人は雲の上の存在である。彼らの経験から来る勇猛果敢なマインドやテクニックは、今現在の彼女をしても〝神〟と称えるべきレベルのメンバーである。

 しかし、羽間正太郎はそんな〝神的存在〟たる両者ですらはるか向こう側に目標を掲げている。

(その点、チェンは何も分かっていない。何も見えていないんだわ……)

 彼女が、男性を恋愛対象に出来なくなってしまったのには、彼女の父親が余りにも立派な考えを持っていたからである。そんな聡明な父親の幻影が彼女の脳裏に焼き付いていたからこそ、それ以降に出会う男性がまるでゴミのような存在に感じられてしまったのだ。しかし……

(こうして考えると、男も女も変わらないものね。ただ、私はお父さん以下の男性と関りを持ちたくなかっただけ。そして、お父さん以上の男性を知るのが怖かっただけなのかもしれないわ……)

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