完全なる均衡㊺

 チェカとチェンの〝デカメロン隊〟の両名が第一ポイントに向かう途中、何度も何度も凶獣に遭遇することがあった。がしかし、それらが集団ではなかったためにさほど困難を極めることはなかった。とは言え、

(何かがおかしいわ……。なんだか私たちは誰かに見張られているみたい)

 チェカの脳裏に並々ならぬ不安が過ぎっていた。

 第一ポイントまで辿り着くには、まだまだ時間を要する。

 彼ら選抜隊の面々には、それぞれに磁鉄鉱から作られた極めて原始的な〝方位磁針〟が支給されている。彼らは、その指標を基に先行した調査隊が指し示してくれた地図と磁針のみのアナログな方法で目標地点まで到達しようとしている。

(でも、こんなことって前代未聞よね。私がヨトゥンヘイム凶獣守備隊に所属していた頃には、こんな凶獣の動きは見られなかったわ……)

 チェカも、この世界の異常事態は承知の上だった。しかし、いくら進化の一途を辿る凶獣とは言え、一つ一つに何らかの違和感を覚えるのは彼女の鋭敏な感覚がそれを見過ごせないのだ。

 チェカが、それらの異状を肌で感じることになったのは、彼女らが第一ポイントにあと数キロメートルと差し迫った時である。

「ね、ねえ、チェン。第一ポイントへの方向って本当にこれで合ってる?」

 暗闇の中で、マッチ棒ほどに削り出したに火を灯し、チェカは葉っぱで覆い隠すように地図と磁針を照らし合わせる。

「何だよ、この俺のナビが信じられねえってのか? お前の人間不信にも程があるぜ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る