完全なる均衡⑫

「だめだよう、正太郎さん!! みんな、あなたみたいな人ばかりじゃないんだからね!! これじゃ、実践に出る前にみんな倒れちゃうよう!!」

 女性一団を引き連れて基礎トレーニングから帰って来た小紋が、正太郎を背後からいさめる。

「あ、小紋か。いや……すまんすまん。しかしよ」

「なあに?」

「しかしよ、小紋。俺ん時はもうちょっとだな……」

 言われて小紋は鼻息を荒くし、

「だからあ、正太郎さんのお師匠さんのゲネック先生の時はそうだったのかもしれないけどね? でもね、それはゲネック先生が正太郎さんを唯一無二の存在として認めてくれてたから出来たことなんだよ? 普通は最初から実戦形式の訓練なんてやらないんだからね?」

 実戦形式の訓練とは、かの凶獣を必然的に呼び出してしまう〝ベムルの実〟を使った体技訓練のことである。この体技訓練は、凶獣ヴェロンを目で追って脳天の部分に飛び蹴りを食らわそうとする、実に困難な訓練である。

「だってよう、小紋。凶獣の迫力とスピードを体感で知ってもらうためには、これが一番なんだぜ?」

「だからって、これじゃみんな本能が委縮しちゃうでしょ!! 僕に教えてくれたときは、こんなんじゃなかったのに……」

「だってよ、それはお前が……」

 言われて小紋は急に顔を真っ赤にして、

「そういうことは今言わないで、もうっ!!」

 可愛らしいほっぺたをぷっくりと膨らまして正太郎に食って掛かる。

 それを見ていた女性の一団は、微笑ましそうに二人を見守る。

「いやはや、これは先が思いやられますな」

 傍らでその光景をうかがっていた吾妻元少佐は、地に伏したままゼイゼイ息を上げる若者たちに向かって憐憫の表情を向けている。

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