完全なる均衡⑬

 訓練も十日ほどを越えると、男性女性の集団を問わず日に日にその効果が目に見えて来るようになった。

 ただ、それには個人差があるため、ここからは小紋の提案により、

「じゃあ後日の訓練からは、クリア出来た項目ごとに十段階にグループ分けします。そして上位グループの方々は、それぞれ一段階下のグループの人たちを対象に指導を行ってもらう形にします」

 ここに集った猛者たちは、全てが戦闘に秀でた優秀な逸材である。それだけに、それほど目立った個人差はないものの、しかしその個人差を埋めなければ凶獣との実戦にはほど遠いのである。

「いいか、みんなよく聞いてくれ。これは小さな実力の差なのかもしれねえ。だがよ、これが凶獣とやり合うとなりゃ別問題なんだ。つまりは、その小さな差こそが、みんなの命を奪う結果になるんだ。もう一度言う。それがどんなにちっぽけな差だとしても、その小さな差こそが仲間の命を奪う要因になっちまうんだ。逆を言えば、その小さな差を埋めなければ凶獣は素手で倒せねえってこった。そこんとこ肝に銘じて真剣に教え合ってくれ」

 理想としては、一人が一体のヴェロンを打ち倒せるようになれれば良い。だが、やはりそれはあくまでも理想の範疇でしかない。

「ならよう。二人一組で連携を組ますとか、最低でも三人連携で打ち負かすようになれれば御の字だろう? なあ、吾妻さん」

「ええ、無論それでも戦略は立てられます。フフッ、ようやく昔の感覚を取り戻されましたかな? 背骨折りどの」

「なんでえ、吾妻さんも人がわりいや。吾妻さんにとっちゃ、俺なんかまだまだ力押しの小僧っ子みてえなもんだな」

「いやいや、そう自虐召されるな。所詮、拙は情報によるだけの戦略家。あなたほどに実戦の荒波を越えて来た戦略家とは異質なものゆえ、これは老婆心から来るおふざけにすぎませんよ」

 

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