完全なる均衡⑪

「ねえ、正太郎さん。僕にもその訓練、参加させて」

 いつの間にやら懐かしい戦闘服に衣替えをした小紋が、ぱたぱたと緊張感の高まる一団に近づいてきた。

「あ、ああ……そうだな。じゃ、じゃあ、小紋。お前は、あのグループの面倒を見てやれ」

 正太郎は、無駄に背筋を張りっぱなしの女性だけの集団を指さす。ざっと見ても十四、五人は居ようか。

「うん、分かった。最初は、僕が羽間さんに教わった時みたいに基礎から始めれば良いんだね?」

 うきうき顔で微笑みかける伴侶に、正太郎は言いし得ぬ照れのようなものを感じていた。

「如何なされましたか、羽間どの? ふうむ。さすがの背骨折りどのも、こういったシチュエーションは不得手で御座ろうか?」

「い、いや……吾妻さん。その、なんて言うか。俺ァ、生まれてからこの方、こんなに充実し切った場面に出くわして来なかったもので……」

「フフッ、何を仰るのかと思えば。今までの人類が人類でなくなるか亡くならまいかとしているこの状況に、自らの幸せを見出すとは……」

「だめだったかね?」

「いえ、とても良いことであると存じますよ。これは、お世辞でも皮肉でもなく」

「へへっ、なら良いんだけどよ」

 談笑し続ける二人のやり取りを見て、そこに集った猛者もさどもがヘラヘラして居られたのも一瞬の出来事であった。

 訓練一日目――。

 その五時間後の彼らの表情は、まさに地底から引きずり出したばかりのしかばねの如くである。

 息も絶え絶え、彼らは巨木の大壁に身体を寄せるだけの体力も残されておらず、ただ地面に突っ伏して自らの回復力に全神経をゆだねていた。

「ああ、やっぱこうなっちまうよなあ……。昔の俺もそうだった。一応、当時俺がゲネックのおやっさんに特訓を受けた時よりも、緩めにメニューを設定したつもりだったんだけどよう」

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