虹色の細胞㉚

 この時大膳の背後から、一人の老博士が姿を現した。その人影は、まるで今までの出来事が、さも当然のようににやりと不敵な笑いを見せ、

「フフッ、ミスターナルコザワ。これで準備は整ったはずだ。これで数十年にも及ぶ戦いに決着がつくことだろう」

「おお、博士……。ゲオルグ博士。今、ご到着なされたか」

「ああ、たった今だ。この時代に向こうの世界から浮遊戦艦を飛ばして来ても、やはり時間の壁は乗り越えられん」

「しかし、ここまで他の世界との融合を果たせば、この精神的に貧弱なわたくしとて、かの羽間君と同等の力を得られる」

「うむ、その計算に微塵の狂いはない。かの男を超える力こそ得られれば、やがて世界は浮遊戦艦と共に人類を永遠の物と認識しよう。そうなれば、宇宙百億年の数秒にも満たなかった人類の歴史が、たった今から数百億年の時を刻むこととなろう」

「それらは、これまでの何世代にも及ぶ他の人種をも超える偉業ともなりましょう、ゲオルグ博士……いや、世紀を超えた大天才、鈴木源太郎博士。あなたは、かの江戸の世の頃からそれを危惧し、そしてこの計画を実行して来た。それが、どのように偉大で崇高なことであるか」

「うむ。人類は、今や瀕死の逢瀬を彷徨さまよっている。それは、わしがこの世に生を受けて最大の危機的状況なのだ。だからだ。だからこそ、儂はこの計画を実行に移した。そして、人工知能神たる〝ダーナフロイズン〟を生み出した。それこそが、神のみぞ知る道しるべなのだ」

「ええ、その通りです。宇宙は、海面に浮かぶ水泡のように無限に増殖されては消滅を迎えています。そのときに生じる一塵いちじんのバクテリアごときに文明が栄え、そしてさも激しい感情が交差するなど誰が観測出来るものでしょう。いや、どんな神とてそれは不可能なことです。しかし、それこそが、我々人類の憂いというものなのです」

「だからこそ儂は、この宇宙のシステムに取り入ったのだ。そして、そのシステムを我々人類に都合よく書き換えたのだ」

「だから、これからなのですな、博士。これからが、私たち〝真ペルゼデールシステム〟の最終フェイズなのです」


 ※※※


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