虹色の細胞⑭


 サイズ感がまるで出鱈目なクリスティーナの偽物に、小紋は憤りを感じながらも、

「ほら、こっちこっち!!」

 血走った大きな一つ目で睨みつける巨躯の女をはやし立てた。

 クリスティーナの偽物は怒りをあらわにし、小紋を睨みつけて向かって来るが、

「動きが鈍い……」

 通常の戦闘アンドロイドやミックスの戦闘員と比較しても、その動作に機敏さがない。だがしかし、

「うわっ!!」

 その豊満な巨躯をひるがえした時に見せる風圧によって、辺りの木の葉が糸の切れた凧のように舞い上がり、その周囲を粉砕された巨木の根がはじけ飛んだ。

「なんて……!!」

 あの迫り来るときに聞いた物静かな足音とは対照的に、感情を高揚させたの力と言ったら何ものにも表現しようがない。

(これが僕が感じた圧倒的力なんだね……!?)

 このままでは命が危ういと感じた小紋は、その場に背を向け走り出した。

 しかし、走り出したとて、またその向こう側には幾重にも巨木の根が張り巡らされている。

 ここでロープを引っ掛けて登り切ろうとも、とても逃げおおせられるものではない。

 だが、小紋には策があった。

「さあ、こっちだよ、こっち!!」

 小さなお尻をぺんぺんと叩きながら、とことん偽物の感情を煽り立て、小紋は八の字を描きながら木の葉の上を逃げ回った。

 巨躯の女が一歩を踏み出すたびに、得も言われぬ地響きと嵐のような風が舞う。

 生きた心地はしなかったが、これも作戦とばかり、

「ほら、こっち!!」

 と、もう一度尻を叩いてその場をしのごうとしたとき、彼女の前に一段と大きな巨木の根が立ちはだかった。

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