虹色の細胞⑬


 そう小紋が思考を巡らしている間にも、刺客たる足音は彼女を探し続けている。

 微塵に粉砕された巨木の根は辺り一帯に四散して、あの巨大な原形を留めていない。

 そこで小紋にある考えがひらめいた。

(そうか、その手がある!!)

 まだ彼女は、敵の姿を拝んでいない。だがしかし、唯一確かな情報を掴んでいるとすれば……。

 小紋は目を凝らし、静かに聞き耳を立てて、もう一度辺りをうかがった。

(うん、敵は右前方四十五度の位置をゆっくりと歩いてくる……)

 何ゆえに小紋の命を狙って来たのかは分からないが、相手はあの怪力だ。まともに立ち会ったところで、たとえ武器を携帯していたとしても勝ち目は無いに等しい。

(それならば……)

 と、小紋はするすると巨大な木の葉の間を潜り抜け、敵の足音のする場所からある程度の間合いを広げると、

「さあ、鬼さんこちら!! 手のなる方へ!!」

 と、いきなり葉の間から姿を現し、大声を出して手を叩いて見せた。

 敵は小紋から後ろ向きに突っ立っていた。しかし、

「うわ、でっか!!」

 思わず声を荒らげてしまった。お嬢様育ちの小紋ではあるが、そのらしくない言葉を口走ってしまったのには理由がある。

「あれじゃ、クリスティーナさんと言うよりも、ジャンボマシンティーナさんだよ……」

 振り向きざまの敵の姿を確認するや、小紋は可愛らしい唇をへの字にして唖然とした。

 それは、あの可憐で溌溂としたクリスティーナの容貌とは似つかわしくない、体長二メートル以上にも及ぶ巨人の姿だった。

 だがしかし、その髪はクリスティーナと同じ赤色の長髪で、彼女と同じスレンダーでしなやかなスタイルである。

 とは言え、その顔は一つ目入道のそれそのもので、とてもクリスティーナ本人とは似ても似つかないまがい物と言えた。

「信じられない、あんなのがクリスさんだなんて!! すっかり声に騙されちゃったよ!!」


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