虹色の細胞⑫


 小紋は、木の葉の間から辺りをうかがった。確かに敵はそこに居る。足音が彼女の居場所を探している。

(なんでこの僕を狙って来たの? なんでこの僕の居場所が分かったの?)

 様々な疑問が小紋の脳裏に錯綜するが、今ここでそれを考えるには余裕が無さすぎる。そして今は、この状況をどうするべきかを考えるのが得策だった。

 小紋は気を取り直し、小柄な体躯を活かしながら木の葉と葉の間を移動しようとしたとき、

(あれっ……!?)

 彼女は絶望的なことに気づいてしまった。なんと、携帯していた武器をすべてどこかに消失させてしまったのだ。

 彼女は怪我こそしていない。が、完全な丸腰であった。あの暴虐とも言えるハンマーの攻撃の勢いで、大事に抱えていたクロスボウも、腰に携えていた電磁トンファーも、どこかに吹き飛ばされてしまったのだ。

(ど、ど、ど、どうしよう……)

 まさに絶望の淵である。非力で小柄を絵に描いた彼女にとって、あれらの武器は生命線である。

 まして、どのような存在であるか計り知れぬ敵に対し、どう対処すればよいのか考慮し兼ねる。

(ここは逃げるって言ったってね……。あの大きな根っこと根っこの間だよ? それに僕は、羽間さんみたいに簡単に登ったり降りたりなんて出来ないし……)

 いかに、凄まじい体力と技能の持ち主であっても、この巨大な根と根の間を移動するには、カレンバナやシグレバナほどの機械の身体に換装しなければ容易なものではない。

(考えるんだ、僕。よく考えるんだ。僕はまだ死ねない。だって、僕は生きてまた羽間さんに会うんだから……)


 

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