虹色の細胞⑮
クリスティーナの偽物はにやりと笑った。いや、小紋にはそう見えた。
緊張が走る――。
獲物を追い詰めた偽物は、興奮のため頬を紅潮させ、静かにこめかみからひと筋の汗を滴らせた。
(きっと変態だ、こいつ……)
それを直感で感じた小紋は、この巨躯の女がこの行為を一つの
互いに身震いを起こしながら、数秒を睨み合ったのち、
「頂くわ」
と、本来のクリスティーナのものと同じ声で怪しい吐息を撒き散らし、米俵よりもはるかに大きな金属ハンマーを振り上げた。
その時、
(来たっ!!)
小紋はそれを待ってましたとばかりに、偽物の
「たあっ!!」
と、雄たけびを上げながら巨躯の背後を取った。
とは言え、偽物の振り上げた金属ハンマーは勢いを止めることは出来ない。そのままハンマーは下段に振り下ろされ、目の前にそびえていた巨木の根ともに木の葉に覆われた地面ごと粉砕してしまった。
「うわあぁぁぁ!!」
偽物の背後に身を隠していた小紋であったが、その打撃の勢いは激しい風圧となり彼女の身体を大きく揺さぶる。
とても計り知れない力に、この世の果てを見て来てしまったような錯覚に囚われたが、小紋はそれでも巨躯の女の髪を離さなかった。
これをまともに受けていたら、生身の人間などひとたまりもない。火薬式の手りゅう弾を一度に数十発以上受けた時よりも強力なものである。
地の奥底にめり込んだハンマーは、熱を帯びて怪しげな煙を立てていた。偽物はそこからじっとして動かす、背を折り曲げたまま沈黙していたが、
「頂くわ……。頂くわ……。その命……。私の赤ちゃんのため……」
そう言って、ぎろりと背後の小紋に目をくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます