見えない扉㊺


 言われて小紋は納得せざるを得なかった。

 羽間正太郎は、かのヴェルデムンドの戦乱の後にA級戦犯扱いでありながらも事実上は野放しにされていた。しかし、その罪状のレッテルと言えば〝第一級テロリスト〟としての厳重監視下の行動制限である。彼は、あの戦乱の一件以来、故郷の地球への渡航は制限されている。

 つまり、かのヴェルデムンド新政府が下した判断は、

『その国の根幹を乱す者は厳重な監視体制の下に置く』

 というものである。

 とは言え、羽間正太郎はそれでも政府の監視体制の目から潜り抜けることが出来ている。実はと言えば、こうして彼が弟子を取り、その後継を育てている行為こそ国家反逆のくわだてとして認識されてしまい兼ねないのである。まして、この時の小紋は現役の〝発明法取締局のエージェント〟なのだから。

「まあ、んなもんは俺のコネクションで得た身代わりドールにすべて任しちまえば済む問題だからな」

 正太郎がさらっと言いのけると、

「でもさ、あれって、どう見たって羽間さんに似てないよ?」

「へへっ、当たりめえだろ。なってったって、政府の監視体制なんて俺にとっちゃザルも同然だからな。中身の認識コードをちょちょいのチョイって入れ替えでもすりゃ、それであっち側はあの人形が俺だと認識しちまう。俺ァ、こういったのを昔から〝ハイテク馬鹿〟つって笑い飛ばしてんだ」

「確かに……。今の世の中は、昔から比べてすんごい進化したように見えるけど」

「ああ、進化したのは機械の方であって、俺たち人間の方なんかじゃねえ。逆に俺たち人類はある意味の部分では退化の一途を辿っていると言っても過言じゃねえからな」

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