見えない扉㊹


 小紋はぎょっとした。まさか、こんなちょっとしたことで自分の心がコントロールされていたなどと。

「な? 簡単だろ? まあ、これは呪いの言葉だと言っても、社会通念上のいましめの意味が含まれているからな。そんなにネガティブに捉えなくてもいい。だがな、世の中にはこれをポジティブにもネガティブにも使い分けることが出来るんだ」

「えっ!? それってなに?」

「ああ、そりゃあ、法律とかモラルとか、宗教の戒律なんてのも一種の呪いみてえな役割をしてるって話だな」

「ええっ!? 戒律は分からなくもないけれど、法律やモラルもそうなの?」

「ああ、そりゃあ広義の意味でってな話だがな。だけどよ、その法律とかモラルとかだって、上手く利用すれば人は簡単にコントロール出来る。んなこたぁ、普通とは逆に考えればいいだけの話だからな」

「逆に考えるって……。羽間さんちょっと……。なんだか僕、頭の中が混乱気味になってるから、もう少しだけペースを落として」

「あ、ああ、すまん。いや、つまりだな。俺が何を言いたいのかと言えば、もしお前が、もしくは対象となる集団に対して、かなりネガティブな〝縛り〟を受け入れさせるには、やっぱり〝法律〟だとか〝モラル〟だとか、そう言った〝いかにも守らなくてはならなそうな前提〟を仕掛けるのが手っ取り早いってことだ。そうすることで、相手に簡単にそのネガティブな〝縛り〟受け入れさせることが出来るって寸法なんだ」

「ま、まさか、そんな……」

「へへっ、まさかと感じるのも当然なのかもしれねえがな。人類の歴史ってのは、そういうもんだぜ、世の中ってのはな、小紋。そういったものの連続で出来ているんだ。だからよ俺ァよ、あの戦乱の後にヴェルデムンド新政府に第一級テロリスト認定の扱いになっちまうんだよ。いつもこんなことばっかり考えて生きているからな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る