見えない扉⑭


 鳴子沢春馬の思惑は、ここまで現実のものとなった。

 元より、〝フォール・アシッド・オー〟は自然派原理主義者によって立ち上げられた過激派集団組織である。

 その集団を取りまとめて来たのは、不思議なほどの異彩を放つ美貌の持ち主白狐のヴィクトリアであるのは誰の目にも明らか。

 彼はその部分に目をつけ、

「この組織の暴走は、僕一人の力じゃ到底無理だ。ならば、ヴィクトリア一人を僕の力で何とかして取り入れさえすれば……」

 という考えからここまでやって来たのだ。

 無論、鳴子沢春馬は白狐のヴィクトリアを本気で愛していた。

 ヴィクトリア自身も、当初は懐疑的な様相で彼の態度を受け入れていたが、次第にそれが本気のものであると感じた時、彼女は春馬の考える理想を受け入れたのだ。

 無論、春馬やヴィクトリアが提示する、

『自然との共存共栄』

 などという理念が、絵に描いた餅であることは誰もが理解するところである。

 ここまで自然を破壊し、人間と言う生物の根底を揺るがし続けているこの時代において、行きつくところまで来てしまった感は否めない。

 だが、だからこそ、人々は飛躍的な発展と飛躍的な退廃を同時に感じている。とりもなおさず、彼らの理想にすがり付いてしまったのだ。

「さてね。ここまで来たら、あとは来るべきものを待つだけだよ、ヴィヴィイ」

「春馬、それはどういうこと? もしかして、自治区の運営側の攻勢でも考えているの? それとも、ネオ・ネイティの裏切りでも?」

「いや、もっと恐ろしいものさ。僕には分かるんだ。だって、血を分けた親子のやることだからね」


 ※※※


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