見えない扉⑮
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「本当に血は争えませんな。まさか、御息女が行方不明となられた現在。と同時に、ご子息が表舞台にお立ちになられるとは」
リゲルデ・ワイズマンは、執務室のソファーに寄りかかり、ため息まじりに大膳に語り掛けた。
「それは皮肉かね、中佐? なにも私は、息子をそのように育てた覚えはないのだがね」
険しい表情の大膳は振り返り、デスクの脇に備えた古びた地球儀に軽く指で触れた。
「まあ、ご子息も今さら反抗期と言うわけではありますまい。今現在のこの地球の有様を考慮すれば、あのようなやり方も一つの手であるわけですから」
「うむ。それはそうなのだがね、ワイズマン殿。これまでも、あのはねっ返りの娘と言い、とぼけた調子の息子と言い、どうしてこうもはっきりとした考えを押し通すものか……」
言われてリゲルデは、それを鼻で笑い、
「まあそれは、あなたの背中を見てお育ちになられたからでしょう。俺は、これこの通り寂しい独り身の生い立ちですが、そのぐらいのことは十分理解できますよ。もしかすると、それを理解出来ていないのは、当の本人だけなのでは?」
すると大膳は、表情を引きつらせながら、
「そう言うものなのかもしれませんな。先の戦乱で死んだ長男もそうでしたが、うちの子供たちの中で妻のように大人しいのは、二番目の娘だけです。それ以外は、頑として自分の考えを貫くことは徹底していましたから」
「それはなんとも、羨ましいものですな」
「と言うと?」
「いや、なに。それだけ、大膳殿はお子様たちに信用されている証拠なのだと思いましてな」
「はあ、そうですかな? 果たして彼らは、これから起こることを目の当たりにして、そのまま私を父親であると思っていてくれるでしょうか?」
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