見えない扉⑧


 この出来事を知った各自治区の住民に、不穏なる亀裂が生じたのは言うまでもない。

 自治区が創設されて以来、自治区内部の人々はそれなりの平穏と秩序を謳歌していたのである。

 だが、あの807自治区消滅の現実を目の当たりにされたとき、

「いや、あれはどこぞの陰謀家たちが作り出したフェイク映像だ」

「いや、あれこそが現実であり、我々の住まう自治区の情報隠蔽が明るみになったのだ」

 などと脳内のネットワーク内で取り沙汰されるようになったのだ。

 とは言え、それが自治区運営やスミルノフ一派への直接的反抗には及ばなかった。

 コルドー・コンスタンティンは、結果を受けて、

「当然のことです、島崎閣下。彼らは全てが機械の身体を手に入れたミックスの集団であります。彼らは、どうあがいても電力供給の整った核融合情報施設の中でしか生きて行けません」

「そうだな。どんなに運営側に裏切られ、得も言われぬほどの反抗心を奥底に抱いておっても、生きて行くためには奴らには電力供給と言う必要不可欠な足かせがある。それを仕掛けたスミルノフ側は心得ておるのだ」

 一度手術を受けたら最後、確かにヒューマンチューニング手術は人を超人たらしめ、人の心を懸け橋のように繋ぎ続ける神のような利便性がある。しかしその反面、それらは電力供給が整った条件がなければただの入れもの。籠の中の鳥でなければ成立しない、限定的な楽園の入り口でもあったのだ。

「さあ、今度は私の番だよ。用意は出来ておるかな、コンスタンティン大尉?」

「ええ、万事整っております。あのメギツネには話が通っておりますよ」

「そうか、とうとうだな。お手並み拝見と行くか。フォール・アシッド・オー。白狐びゃっこのヴィクトリアとやらの」

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