見えない扉⑦


 ※※※


 山が消え、一つの自治区が消滅したことは全世界に発信された。

 無論、それは島崎宗孝率いる〝ネオ・ネイティ〟と呼ばれる核融合情報自治区の存在を快く思わない一派の故意の差し金である。

 本来なら、スミルノフ一派である核融合情報自治区は、他の不適切な情報の一切を遮断したアンタッチャブルな世界である。

 だが、組織力をつけて来た〝ネオ・ネイティ〟のクラッキング技術によって、その障壁はことごとく破壊され、ありのままの〝不都合な情報〟を自治区住民に知らしめられるようになったのである。

瓢箪ひょうたんから駒が出たような出来事であったが、これも時の流れというものだな」

 島崎は、執務室で秘書官のコルドー・コンスタンティン大尉に言葉を投げかけた。

「はい。中佐のおっしゃる通りです。古くから世の中のことわりは、人間万事塞翁が馬申しますれば、こうやって把握した情報だけが事実であるというのは、人間の傲慢さのなせるわざです。わたくし共が知っていることなど、事実のほんの一部なのですから……」

「うむ、その通りだな。なにせ、あそこに元87部隊の女と小娘を潜り込ませたまでは、こちらの思惑通りであったが、あのような戦術核までをも保有しているなどは、あの自治区の上層部しか知らぬことであっただろうからな」

「ええ、閣下。この結果を踏まえて、我々ももっと気を引き締めませんと」

「ああ、心得ているよ、コンスタンティン」

 言って島崎中佐は、敬礼さながらに颯爽と執務室を去って行くコルドーを片目で見送った。

(たわけ。元情報部上がりの貴様が、あの情報を知らんだと? この化けギツネめが……)


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