全世界接近戦⑨
しかし、美菜子大尉のその危惧は現実のものとなる。
「ミナコ、非常事態だ!!」
副官のハーゲット准尉が血相を変えて、指揮官専用のリビングテントに飛び込んで来た。
「どうしました、ジム!?」
普段はあまり感情の起伏を見せない彼に、彼女は一瞬にしてただならぬものを感じた。
「ミ、ミナコ……い、いや、島崎大尉。早くここから出よう!」
「出るって!? 状況を説明して!」
「説明している暇がないんだ! さあ、早く!!」
ハーゲット准尉は、まだ状況を飲み込めていない美菜子大尉の腕を強引に引っ張り、テントの外に飛び出す。
「一体どういうことなの、ジム!?」
「どうもこうもないよ、ミナコ。ほら、あの丘の向こうを見るんだ!」
ハーゲット准尉は混乱していた。あまりの状況に、プライベートと規律の垣根が無くなっていた。
「丘の向こうって……」
言われて美菜子大尉は、ハーゲット准尉の指さす方向を見た。すると、
「な、なんなの、アレ……!!」
切り出した断崖から見える丘向こうに、空を飛び交う無数の黒い斑点が見える。
「アレは、凶獣の群れだわ。だけど……」
しかし様子がおかしかった。分布図によれば、あの丘の向こうには凶獣ヴェロンの巣が存在していることは間違いない。
言うに及ばず、その巣の上空に蚊トンボが飛び回るが如く空の色を真っ黒に染め上げているのだが、
「よく見るんだ、ミナコ。僕には分かるんだ。この世界に移住して来た頃に街を滅ぼされた経験のある僕にはね。あれは凶獣たちの断末魔に遭った光景だ!!」
ハーゲット准尉は青ざめていた。息が上がり、額に無数の脂汗を垂れ流している。
「断末魔に遭ったですって!? それはどういうことなの、ジム?」
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