全世界接近戦⑧


 ハーゲット准尉以下の彼女の部下たちは、ゲッスンの谷守備隊の中でも指折りのパイロットの集まりだった。

 もし、この場面で敵襲に遭い、いきなりの戦闘を仕掛けられたとしても、それを打ち返すだけの力量もある。

 そんな優秀な人物の集まりでもある北方面軍第四守備中隊なだけに、美菜子大尉は何の収穫もなしに手ぶらで拠点に帰ることが出来なかったのだ。

 それは、彼女らの中隊が出動して一週間が経過したときである。

「島崎大尉、司令本部からの通達です。北方面軍第四守備中隊は、今夜0時00分をもって偵察任務を終了し、北方面拠点に帰還されたし、とのことです」

 見晴らしの良い断崖絶壁の上に陣営を張った偵察守備隊は、その報告を受けた時点で夕飯の真っ最中であった。

 あと二日で資材も食料も尽きる。これ以上の探索を行えば、やがて何らかの支障を来たすだろう。

 ここまで念入りに探索を行っても、何も情報を掴めなかったというのは、今まで数々の功績を上げてきた彼女にとって、とても悔しいことだ。

「やむを得ませんね……。分かりました、その本部の通達を受理しましょう。私たち北方面軍第四守備隊は、今夜0時00分をもって偵察任務を終了し、直ちに拠点に帰還します。ハーゲット准尉。各隊員に通達してください」

「ハッ、了解しました!!」

 ハーゲット准尉の表情から、その帰還命令は喜ばしさが滲み溢れていた。

 確かに任務達成という観点からは、とても納得の行くものではなかったが、この野蛮を絵に描いたような大森林の中を、一週間も彷徨さまよい回るのは生きた心地がしない。そればかりか、この湿度の高い猛暑の中を探索する行為は実に肉体への負担が大きい。

(この度の任務では、部下に無理をさせ過ぎてしまいました。これも、私の驕りなのかもしれません……)



 

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