全世界接近戦⑦


 ヴェルデムンド世界の真夏は、とても厳しい。

 それは猛暑という気候的な要因だけでなく、肉食系植物が異常繁殖する時期でもあるからだ。

 反乱軍司令部からの情報では、ゲッスンの谷の北エリアの外れに、新政府軍の戦力が終結しつつあると報告が入っている。

 しかし、その北外れの終結場所から、その断崖絶壁のワインディングを侵攻ルートにすると、必ずや凶獣たちの巣の上を通り抜けなければならない。

 いかに新政府軍のフェイズウォーカーが優秀であり、そして反乱軍と比べ数に勝っていようとも、そこを大群で通り抜けるのは命懸けであり、非現実的な戦略ルートと言えた。

「ハーゲット准尉。もしかすると敵軍の誘導ビーコンは、別のルートに仕掛けられている可能性もあります」

「なるほど。一見、この崖の上のワインディングルートを侵攻すると見せかけて、その脇に本筋を開拓している可能性もあるということですね?」

「そうです。我々が、この谷の防衛に必死なように、敵軍もこの谷の奪還に必死なのです。念には念を入れて、侵攻ルートの探索にかかりましょう」

「了解しました、大尉殿」

 美菜子大尉は、この後も司令である父親の助言から、かなり念入りな探索に努めた。

 しかし、彼女らの必死の探索もむなしく、このワインディングルート以外の侵攻ルートらしき場所が見つからない。

「あれから三日が経過しましたが、一向に侵攻ルートらしき標榜が見当たりません。本当に、こんなんで敵軍はこちらに仕掛けて来るのでしょうか?」

 ハーゲット准尉からの通信に、美菜子大尉は戸惑いを見せていた。

 いくら鍛えられているとは言え、彼らとて人間である。新政府軍とは違い、皆がネイチャーを自負する生身の肉体であるがゆえに、その疲労困憊具合もこの猛暑の中でははなはだしい。

「気持ちは分かりますが、まだ何の成果も得られていない以上、このまま帰るわけにはいきません。もう少しだけ頑張ってみましょう、ハーゲット准尉」

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