全世界接近戦⑥


 ゲッスンライトという鉱物は、それを電子回路に組み込むだけで、今までの電力消費を三分の一から十分の一まで抑えることが出来る優れものであった。

 ゆえに、強制的にヒューマンチューニング手術を民衆に施しているヴェルデムンド新政府にとって、この鉱石は喉から手が出るほど重要な物質である。

 かのヴェルデムンド世界にあって、ゲッスンライトが大量に産出される場所はここだけであり、他の場所にはさほど見当たらない。

 つまり、このゲッスンの谷を取るか取られるかで、このヴェルデムンド世界のみならず、母なる大地の地球の行く末をも左右してしまう影響力があるのだ。

 この重要な拠点を任されている島崎は、寝る間もなく心血を注いで防衛に当たっていた。

 その夏は非常に暑い夏であった。

 夏のヴェルデムンドは、肉食系植物の温床である。異様な蒸し暑さと、草いきれの立ち込める大森林は、とても常人には耐え切れぬ環境である。

 そんな中を、島崎美奈子大尉率いる北方面軍第四守備隊の面々が、侵攻ルートの予測範囲を偵察に出されたのは、かくも真夏の日差しが大森林の中へも差し込んで来てしまう猛暑日であった。

「島崎大尉。未だ敵侵攻ルートに使用されるビーコンは発見されていません。あの噂は本当なのでしょうか?」

 フェイズウォーカー十五機中隊を率いながら、美菜子大尉は、部下のハーゲット准尉の通信を受ける。

「そうですね、ハーゲット准尉。確かに、新政府軍の終結地点からの予測を鑑みれば、敵軍がこのルートを取って来るのは間違いないはず。ですが、このルートは、我々からしても難航ルートなはずです」

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