全世界接近戦⑤


「なるほど、ホワイトグレープ剤の改良型か……。やはりな。あれだけ広範囲な布陣でありながらも、これだけ影響力がある薬品ともなれば、間違いなくそうであろう……」

 島崎は、力なくその場にしゃがみこんだヴェロンの頭を撫でながら口ごもった。


 島崎には、自身に美菜子という一人娘の存在があった。

 美菜子は、島崎にも似て優秀な指揮官であり、優秀なフェイズウォーカーのパイロットでもあった。

 そんな美菜子が、ゲッスンライト鉱山であるゲッスンの谷防衛隊の一部を任された時のことである。

「お父様……いえ、島崎司令。このゲッスンの谷は、いかに新政府軍の物量が我々反乱軍を圧倒しようとも、自然の要塞に囲まれているので容易に攻め入られることはありません」

「うむ、美菜子……いや、島崎大尉。お前の言う通りだ。だが、油断はするな。ゲッスンライトは、これからの未来にあって、かなりの重要度を占めた奇跡の鉱石なのだ。敵は何としてでもこの鉱山を取り戻そうと躍起になっている。お前は北方面軍守備隊の隊長として、その任務を全うしてくれればよい」

 男勝りでありながらも、かなりの美貌を兼ね備えた島崎美奈子大尉は、周囲の兵士や武官からも多大なる信頼を得ていた。

 この反乱軍にあって、父親の島崎司令と、その娘である美菜子大尉の折り目正しい振る舞いは、他者の共感を呼び、

〝模範的な親子鷹〟

 と称され彼らを嫌う者は見受けられなかった。

 そんな彼らに出動要請が下ったのは、羽間正太郎の大活躍により、このゲッスンの谷を攻略してから、三か月後のことである。

 ようやく守備隊の構成の目途めどが立ち、各隊に最新型のフェイズウォーカーが配備されつつあった夏――。

「島崎司令。諜報部の情報によりますれば、ゲッスンの谷北方面エリアに、敵軍のフェイズウォーカーが終結しつつあるとの報告が入っております」




 

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