災厄の降臨㊾


「これを使って!!」

 小紋の手から放たれた小さなものをキャッチしたとき、

「こ、これは!? こんな物でどうやって!?」

 シグレバナは目を見開く。

「ここはシグレバナさんの出番だよ!! あなたの得意分野で相手をやっつけて!!」

 彼女はまるで意味が分からず戸惑っていたが、

「この匂いは、まさか……」

 渡された小瓶の中身を確認して全ての意味を納得した。

「そうか、その手がありましたね」

 言ってシグレバナは、小紋と同様に闇にむせぶ渓谷の絶壁を雪崩のように滑り落ちるのであった。

 

 ここまでくれば、四の五の言って思案に時間を割いている余裕はない。少しでも遅れれば、大親友の命の灯が消えてしまうのだ。

 彼女は、一気に谷底にまで身を落とすと、そこで出来るだけ湿気を含んでいない枯れ枝を拾い集めた。

 そして、集めた枯れ枝を適当な間隔に並べ立て、

「さすがは鳴子沢さま。よくこんな状況でこんなことを思いつきますね。つまり、武器の射程距離だけが戦術の雌雄を決するというわけではないというわけですね」

 言ってシグレバナは、小紋に渡された小瓶の中身を枯れ枝に撒き散らした。

 そして、なるべく凹凸の利いた河原の石を二つ拾い、その石を激しく叩き合わせて火花を散らせたのであった。

「さあ、お行きなさい。これであなたたちは、その野蛮な心の制御を失うのです」


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