災厄の降臨㊽


「さあ、私にはとんと見当もつきませんな。なにせ私は、機械音痴なもので……」

 言いながら、シルクハットの大男は不敵な笑みを浮かべつつ、その部屋を後にした。

「ふん、何とでも言うがよい。この戦争屋風情の腐れ外道めが……」

 島崎は扉が閉まるのと同時に、ぶつくさと言葉を吐いた。

 言うものの、島崎らに残された手段はこれしかない。

 振り返って、

「桜庭君。これは私怨では済まされん段階に来ておるのだ。我々は、あの戦力を使って、この世界を元通りにせねばならん使命がある」



 ※※※


「カレンバナ、応答して!! カレンバナ!!」

 地上から暗中を見上げるシグレバナの表情には、微塵の余裕すら潜んではいなかった。

 百メートルもの上空にて〝私刑〟の目に遭っているカレンバナの姿を、暗視望遠モードで目視することは出来る。がしかし、決して彼女の手の届く距離ではない。

 生死を共にして戦って来た無二の友人に対し、救いの手を差し伸べることさえも出来ないもどかしさに、得も言われぬ悲しみが宙を舞う。

「カレンバナ……」

 これを仕掛けたのが、おそらく島崎であることは間違いない。その事を予測した彼女は、これまで遂行して来た暗殺任務の数々を思い起こしては、またそれをため息に変えた。

 その時である――。

「シグレバナさん!! あきらめちゃダメだよう!!」

 谷の上方から激しい声で滑り落ちて来る小紋の気配に、シグレバナがハッと気づき、

「鳴子沢さま!! それはどう言う!?」

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