災厄の降臨㊹


 おそらくは、かの凶獣たちの強引な滑空飛行によって意識を持って行かれてしまったのであろう。

「クッ……。すぐには殺さずに、いじめ倒そうとでもいうのか」

 シグレバナは、それらの行動に強烈な思念を感じた。

 しかし、目測でおよそ百メートル以上の上空を飛び回る相手に、彼女は対策の打ちようがない。

 愕然と腰を落とした時、シグレバナは足元に一つの物体を見つけた。

「こ、これは……」

 間違いなくカレンバナの右足であった。右足首には、彼女らおそろいの銀のアンクレットがはめられている。

 大腿部からそぎ落とされるように、妖艶でしなやかな右足がその場に落ちていたのだ。

「ということは、奴らめ!! カレンバナが容易に逃げられぬようにと……」

 類まれなる跳躍力と俊敏性を誇るカレンバナの能力を知ってのことか、凶獣らはすぐさま右足を切り落し、結果的に彼女の最大能力を奪い取ったのだ。

「な、なんという……」

 ただすぐには殺さず、執拗なまでにいたぶろうとする凶獣たちの行動は、あまりにも異常で、あまりにも残忍で、あまりにも極度にねじ曲がっている。

 一思いに殺されるならまだしも、これでは私怨に満ちた私刑だ。

「いや、これはまさか……!!」

 その時、シグレバナの脳裏にある思いが浮かんだ。

 そう、これはただの凶獣の襲来ではない。復讐を兼ねた惨殺劇なのだ、と――。

「ということは、もしかすると……」

 これは彼女の予測の範疇でしかない。だが、彼女らの辿って来た道を鑑みれば、それがただの妄想でないことは明らかだった。

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