災厄の降臨㊶


 その刹那、なんと他の凶獣が標的の凶獣をかばい、その大きな羽根で十字手裏剣の軌道を変えてしまうのである。

「ば、馬鹿な……!! あの獰猛で低知能なはずの凶獣が!?」

 このような連携を見せてまで、互いの窮地を克服してしまうなど、これまでには考えられないことであった。

「お気おつけなさい、シグレバナ!! こ奴らは!! こ奴らは……!!」


 カレンバナの通信を受けたシグレバナの脳裏には、瞬時にたった今あった出来事のフィードバックがされた。

 しかし、いかにデータが送られて来ようとも、彼女には対策が打てない。なぜなら、

「身共には、カレンバナのような跳躍力も投擲力も……」

 シグレバナは、工作任務に特化したサイボーグである。いかにその昔、隆盛を極めた87部隊のエージェントとは言えど、これらの攻撃を容易にかわし切れるほどの能力を有してはいない。

 丸太の投擲機を突破されれば、いかにサイボーグの彼女とは言え命に係わる。

 凶獣は、編隊を組んで降下して来た。

 カレンバナが位置する右翼側に第一陣を降下させ、そして横から投擲機を破壊する算段のようだ。

 シグレバナが守る左翼側には、まだ一匹たりとも凶獣が降りて来ていない。故意に降りて来ていないのは明らかで、凶獣側が丸太の矢の射程距離を心得て居てのことである。

 凶獣たちは、彼女らの虚を突いて谷底の下方から進出し、それで上方にひるがえって攻撃を仕掛けてきたのである。

「現代の凶獣という生き物を、甘く見た罰か……!?」

 シグレバナは、丸太の矢の矛先を右翼側に変え、それを放つがまるで当たらない。

 それもそのはずで、どうあっても凶獣たちの飛び回る角度に森の木々が邪魔をして攻撃自体をさえぎってしまうからだ。

「何もかも、計算済みというわけですか!!」



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