災厄の降臨㉙


 その後、三人がこの情報核融合炉付きの自治区の周囲を確認したものの、誰一人生存者を見つけ出すことは出来なかった。

 この状態で、恵みの雨さえも降らなければ、きっとこの山間やまあいのエリアは、やがて消し炭だらけの地獄絵図となることは必至である。

 しかし、個人の力でそれを止めることなど出来ない。この偵察ミッションは、それを分かった上での行動である。

「ですが、鳴子沢さま。凶獣らは、なぜ自治区の核融合炉などを襲ったのでしょう?」

 次の偵察エリアに向かいながら、納得のいかぬカレンバナが問う。

「え? え……あ、ああ、ええと、そ、そうだね。ううん……そうそう。ずっと以前から、凶獣ヴェロンは、あの世界の〝緑の守り神〟とか言われてたでしょ? だから、ああいった施設が出来たりするのを好まなかったんじゃないかって、僕は思うよ」

 言われてカレンバナは、彼女らしくもない、やたらもたついた言い様に首をひねりながら、

「そうなのですか。まあ、凶獣マスタ―の鳴子沢さまがそうおっしゃるのでしたら、そうなのかもしれませんが……」

 その様子を傍からうかがっていたシグレバナも、

「あの、鳴子沢さま? 何かお身体のお具合でもよろしくないのでしょうか? 今朝方から、どうもバイタルサインの数値が下がっておりますけれど……」

「い、いえ、僕の身体は大丈夫です。だって、重い荷物なんかは、お二人にお任せしちゃってるし」

「そうで御座いますか? では、精神面で何か?」

「う、ううん! そんなことないよ、シグレバナさん。気に掛けてもらってありがとう。でも、僕は全然大丈夫だから心配しないで」

「そうですか。なら宜しいのですが……」

 カレンバナ、シグレバナの心配もよそに、小紋は険しいけものみちを、すたすたと歩みを強める。

 二人は、互いの怪訝な表情で目を合わせながら、小紋の背中を追った。



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