災厄の降臨㉚


 そして、三人が燃え盛る自治区から西の方角へと進路を変えた頃、その時点で肌を射貫かれてしまうのほどの激しい雨が降り出して来た。

 まだ日も暮れかかって来るほどではないが、

「鳴子沢さま。本日はここにキャンプを張りましょう」

 立ち止まってしばらく天を仰いでいたシグレバナが、そう言いだしたので、二人は静かにうなずいてその場に荷物を下ろした。

 三人は、全身ずぶ濡れになったまま、比較的がっしりとした岩場のある平地を見つけ出し、そこにテントを打ち付けると、

「鳴子沢さま。お寒くは御座いませんか? 早速、カレンバナが火を焚きつけるご用意を致します。濡れた衣服は、それでお乾かしになってください」

 世話好きなシグレバナが、優しい声で小紋をテントの中へと促す。

 そこは殴りつける豪雨の森とは違い、全くの別世界である。激しく打ち付ける雨音は避けられないものの、まるでムード溢れるラウンジのように心落ち着かせる雰囲気すら漂う。

「これはすごいね、シグレバナさん。こんな物まで用意して来たの?」

 小紋が声を跳ね上げると、

「はい。これは、身共らがかつて87部隊に所属していた頃からの儀式のようなものです」

「儀式?」

「ええ。身共らは、少し変わっておりまして……。かつて、どのような任務にあっても、こういったことにこだわり続けて参りました。それが、どのように過酷で冷徹な任務の最中にあっても……」

「ううん、全然変じゃないよ! 変どころか、とっても素敵だよ。こういうこだわりがあるって、最高だよ」

「有り難うございます、鳴子沢さま。一度こういったことを見知ってしまうと、もう二度と後に戻ることは出来ません。今考えてみれば、これは身共らの〝新政府軍〟に対するちょっとした抵抗だったのだと思います」

 言って、シグレバナはにっこりと笑う。

「なるほど。ちょっとした抵抗かあ……」

 




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