災厄の降臨㉗


 シグレバナの解析能力によると、施設は未だ燃え盛っているものの、人体に有害なレベルの放射線や電磁波などは降り注いでいないということだ。

 しかし、この異様なまでの炎の火力は、ただ単に凶獣の襲来を受けたにしては外連味があり過ぎる。

「これは、何か他にナパーム弾のような特殊な兵器を使用したとも考えられますね。そういった分析は見られないのですか、シグレバナ?」

「いいえ、カレンバナ。あなたの言うような燃焼性の高い物質の残留や発生ガスの滞留などは今のところ認められません」

「それでは、この不自然な炎の正体は一体なんだと言うのですか? まさか、あの水分を多く含んだ凶獣のみで、この傲慢すぎる炎を生み出せるはずがありません」

「そんなふうに言われましても、ねえ。鳴子沢さま……」

 カレンバナに責め立てられるようにただされるシグレバナは、余りにも困り果て、腕組みをしたままの小紋に視線を向ける。

「え、僕!? い、いやあ……分析が得意なシグレバナさんが分からない物を、僕に振られてもさあ」

「でも鳴子沢さまは、数年前に発明法取締局のエージェントでいらっしゃったから」

「い、いやあ……。いくらエージェントって言ったって、僕は駆け出しのペーペーで、こういう難しいことは、みんなマリダがやってくれてたし……」

 小紋は鼻を掻いてみせる。

 三人は、一度現場を引きさがり、顔を寄せ合ってそれぞれの考えを語り合った。

 その見解によれば、

「もう、これを口にするまでもありませんね。この事態を直接引き起こしたのは、間違いなく凶獣ヴェロンです。そして凶獣たちは、この自治区内にある〝小型核融合〟を狙ったということです」

 シグレバナが、冷静な表情で語る。

「そうですね。そこまではシグレバナの言う通りだと身共も思います。しかし……」

「しかし、何です?」

 ただされてカレンバナが、

「はい。しかし、おかしいではありませんか? いかに凶獣たちが以前よりも進化したと言え、それほどまで知的な策謀をもって行動を起こしたとは考えられません」

「なるほど。それは数時間前の身共らに対する蛮行をもって言っているのですね?」



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