災厄の降臨⑳



「今思い出すだけで身震いしちゃうぐらいだよ。けど、それでもそのお陰で僕は晴れて羽間さんに弟子入りを認められたんだ……」

 言いつつ、小紋は渋面を作りながら暗闇の中の森林を駆け抜けた。

 どんなに87部隊出身の二人が優秀であろうとも、あの凶獣ヴェロンに追いかけられでもすれば苦戦を強いられるのは当然のこと。なにせ、あの存在を単独で、それも近接武器のみで倒せるのは、この世界広しとは言えど十指にも及ばない。それがこの世の中の現実なのだ。

「あのカレンバナさんとシグレバナさんが、聞きなれないほどの悲鳴を出すぐらいだから、相手はきっと凶獣に間違いないよ。なら、ここは僕が飛んで行くしかない!!」

 小紋は両腕に携えた電磁トンファーを構え直し、彼女たちの悲鳴が聞こえる方向へと行く手を急いだ。


 案の定であった。

 小紋が、森林のざわつく方向へと駆けてゆく。するとそこには、

「カレンバナ、その方向には行ってはいけません!! 対象は一体に見せかけて、別のもう一体が身共たちを待ち受けています!!」

「了解しました、シグレバナ!! しかし、この追っ手を回避するだけでも身共らには荷が重すぎます!!」

 元87部隊の両名は、木の枝から木の枝へと縦横無尽に飛び移り、必死で一体の凶獣の魔の手から逃げおおせている真っ最中であった。

 しかし、彼女たちは腐っても元特殊工作部隊のミックスである。その疾風はやての如き跳躍の連動は、通常の存在であればその動きを容易に視認することもままならぬ。

 だが驚愕すべきは、その彼女たちの尻を追う怪鳥の姿――いや、怪鳥の姿にも似た巨躯の凄まじい飛空能力である。

「この世界に凶獣が存在しているだけでも驚きを隠せぬというのに……!!」

「まさか、このようにすばしこさまで進化しているなどと……!!」

 カレンバナ、シグレバナの形が良く丸みを帯びた尻に向かい、一体の凶獣が驚異的な飛空能力を見せつける。それはまるで、色恋に飢えた野獣の如き驚愕の本能である。

 その光景を目の当たりにした小紋は、

「これじゃまるで、どこかの誰かさんがここに居るみたいだよ……」

 こんな逼迫した状況だというのに、なぜか目の前のヴェロンの姿を、自身の師と重ね合わせてしまう。

「だめだめ!! そんなこと言ってる場合じゃない!! 早くカレンバナさんとシグレバナさんを助けなきゃ!!」

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