災厄の降臨⑨


 それからの小紋は、まさに鬼神ともいうべき勢いだった。

 彼女は、かのヴェルデムンドへの渡航要件がある、あらゆる企業、あらゆる公的機関の試験を受けまくり、さらに、

「もし、これで全部受からなかったら、僕は採掘工の仕事でも何でもやっちゃうんだからね」

 かの地での仕事にありつくためならと、あらゆる職業を徹底的に調べまくった。

 無論、採掘の仕事とは、希少鉱物のゲッスンライトを始めとしたものを手掘り作業する大変過酷なものである。

 かの地の採掘作業とは、その作業自体も重労働ながら、その上に現場へと赴く時点で命懸けである。言わば、重労働という概念を超えた、一攫千金の禍々まがまがしい職業の代名詞でもあった。

 彼女は、そんな怪しい私企業にまでエントリーを行おうとしてまで、かの地へと、かの存在を求めて行動を起こしていたのだ。



「そういうことだったのですね、鳴子沢さま……」

 シグレバナは、自らの豊満な胸の谷間で寝息を立てる彼女を、そっと優しく抱きしめた。

「世の中とは常に残酷なものですね、シグレバナ。あなたのその〝百合の谷の幻術〟は、その方の過去を全て洗いざらいさらけ出してしまうものです……。しかし、こうして鳴子沢さまのお話をうかがってしまいますと、かえって情にほだされてしまうというものです」

「そうですね。あなたの言う通りです、カレンバナ。身共が、こんなに切ない気持ちになったのは、いつぐらい前のことでしょうか。こんな気持ちになってしまうのであれば、最初からこの幻術など使うのではありませんでした」

「ええ……。身共らは、こうしてこのお方の、あの方への積み重なる思いのたけを知ってしまいました。これは、一途というものを通り越して、激しい情念というものを感じます」

「ええ、これは生半可な覚悟などというものではありません。このお方の諸行は、自らが切り開いた道なのです。このお方は、それほどまでに背骨折りさまに対して真剣なのです」




 

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