災厄の降臨⑩


 まさにこれまでの小紋の行動は、彼女たちの羽間正太郎に対する思いの範疇はんちゅうを超えていた。これほどまでに強引な力で手繰たぐり寄せた運命の糸を見たこともなかった。

「フフッ、このような小さなお身体で」

「これだからこのお方は、大勢の方の厚い信頼を得られているのですね」

 そして、それは彼女たちも同様だった。

 カレンバナ、シグレバナの両名は、かつてのヴェルデムンド新政府軍の特殊任務部隊の精鋭である。

 だがしかし、その部隊の間に存在する関係性は、まさに軍事規約や義務以外のなにものでもなく、ただ幼少の頃に孤児として組織に拾われた恩を、

「その、お前たちの命や尊厳まで賭して返さねばならぬ」

 と、根底に刷り込まれたものでしかなかった。

 そんな彼女たちにとって、あの羽間正太郎の破天荒な〝意見状〟の行為は途轍もなく不可解極まりない、そして天地がひっくり返るほどの衝撃だったのだ。

「無論、身共とて、あの行為が、背骨折りさまの戦略の一つだったのかもしれないと思うております」

 と、カレンバナ。

「ええ、ですが、あのお方は、あのようなことをすることによって、こんな価値観を植え付けられた身共どもに、ひとつ自分の頭で考えようとする切っ掛けを与えてくださったものと考えております」

 と、シグレバナが続く。さらにシグレバナは、スヤスヤと寝息を立てたままの小紋を抱きかかえたまま、

「きっと、このお方も、あのスナップ写真ショットをご覧になって、それまでの歪んだ気心に何かの刺激をお受けになったので御座いましょう」

「そうですね。シグレバナ……」

 と言ってカレンバナは、その懐から一枚の紙切れを持ち出す。「そう、まさか……、あなたがあの時に撮ったインスタント写真ショットが、こちらのお方の人生を変えてしまうことになるなんて……」

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