災厄の降臨⑧


 彼女の思いは、無論、家族や周囲の友人知人たちにの知るところとなった。

「あの人に会いたい……」

 思いが募り過ぎて、周囲の者たちがドン引きするぐらい言葉が漏れてしまっていた。

 時に、世の中には奇特な人が現れるものである。

 時代の流れというものもあったのだろう。まだ戦乱のほとぼりも冷めやらぬ時期的なものが作用し、彼女は、授業を受けた講師の伝手から、特別にある一枚の写真を手に入れることが出来た。それが、かの〝ヴェルデムンドの背骨折り〟の異名で呼ばれた羽間正太郎の実物のインスタントスナップ写真である。

 羽間正太郎という男の名を知ることになったのは、のちに彼女がヴェルデムンド世界に渡航し、〝発明法取締局〟に入局してからになるが、この写真を手に入れた時は、という存在が、ありふれた都市伝説の類いや、インターネットの誇張話のネタの一つではないことを確信に変えた瞬間であった。

 それからというもの、彼女の思いは募りに募り過ぎて、やがて学校の卒業を機会に、かの弱肉強食の野蛮な世界への渡航を決意することになる。

 当然のことではあるが、それを家族の者に猛反対された。

 確かに彼女は超が付くほどの健康体であり、あらゆる座学や実地研修、スポーツ関連の体技的な学科でも優秀な成績を収めており、血筋と言う側面からも決して他からも見劣りすることのないエリート街道一直線の女性であった。

 しかし、それゆえに、それが彼女を苦しめる材料となった。

「小紋、お前の兄であり私の大切な息子である一真は、あの戦乱の煽りを受け、結果的に情勢というものに忙殺された。お前はこの私に、あの思いを、またあの悲しい思いを繰り返させるつもりなのか……?」

 父、大膳や、姉の風華に激しく何度も説得された。

 ついその少し前にも、四兄妹の三番目の兄春馬が、当てのない旅にあの世界に旅立ってしまった。

 それを受けてか、ヴェルデムンドへ旅立ちたい小紋へ包囲網は、より激しいものとなった。

 がしかし、もう彼女の思いは揺るぎがない。

「背骨折りさんに出会うまでは、僕は絶対にあきらめない!!」

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